vol.30 スタッフの度重なる想定で成り立つ訓練 OBP初・全エリア防災訓練の舞台裏

OBP Style始まって以降、毎年取材をしているエリア防災訓練。2019年10月24日は、OBP史上初のエリア全体での防災訓練が行われました。
今回の取材では防災訓練がどのように成り立っているか、事前の準備から訓練当日までを追いました。

5年目を迎える訓練。いよいよ全ブロック実施へ

5年目を迎える訓練。いよいよ全ブロック実施へ

OBPの防災訓練が始まったのは2016年度。本年度で5回目を迎えます。
過去に行われた4度の訓練では、記憶に新しい昨年度の西ブロック避難誘導訓練や、情報伝達訓練として防災担当者が無線機の検証・訓練を行うもの、南および北ブロックでの避難誘導訓練でした。(→2018年度の様子はこちら
そして、今年度はOBP史上最も大規模となる3ブロック一斉避難訓練です。

防災スタッフは半年をかけて準備する

防災スタッフは半年をかけて準備する

毎年行われている防災訓練ですが、もちろん当日だけの話ではありません。
OBPエリアには各ビルから選出された2〜3名が、防災担当スタッフとして年に5回程度会議を重ねていることをご存知でしょうか?
訓練のストーリー企画・立案、災害対策本部の設営、各ビルの退避誘導、救護や要案内者対応など退避後の各訓練に至るまで等、考えねばならないことは盛り沢山。
訓練3回目まではOBP協議会の災害対策本部コアメンバーが行っていたこれら一連の内容は、昨年度より各ビルの防災担当スタッフへ任せられるようになりました。

実際の震災においては “わからない”“誰かがどうにかしてくれる”は命取り。一人でも多くの方に訓練内容と向き合ってもらうことで、OBPワーカーの防災意識向上を底上げすることが目的です。

用意周到なリハーサル「図上訓練実施」

昨年度の目標であった「図上訓練実施」

防災訓練当日より1ヶ月前の事前準備段階で取材へ伺うと、そこでは中心となって進めるOBP協議会のメンバーを含めた約40名の防災担当者によって図上訓練が行われていました。
これまでの訓練はエリアのブロックごとで行われていたため、数棟のビルの連携で済みました。しかし、今回は全ブロックです。規模の拡大はもちろんのこと、それぞれのブロック同士でも連携する必要があり、訓練の難易度はぐんと上がります。

この日、図上訓練では参加する全員が集中し、出来得る限りの脳内イメージを図上に反映させようとする姿が印象的でした。

シナリオに沿って徹底的に確認

シナリオに沿って徹底的に確認

無線機の確認で始まった図上訓練。
エリア全体の地図を広げ、上には人形。この人形に自身を投影させます。
図上訓練がスタートした会議室は一斉に静まり返り、防災スタッフの皆さんは一同真剣な表情でマニュアルを追いながら、無線から流れる各ブロックの報告に耳を傾けます。

どの段階で物資を運ぶのか、移動距離やワーカーの避難誘導のタイミングは大丈夫か、訓練当日のシナリオに沿って細かな動きの確認がされます。

エリア全体と、ビルごとの対応、シナリオのズレは要改善

エリア全体と、ビルごとの対応、シナリオのズレは要改善

図上訓練終了後、保険会社にお勤めの男性にお話を伺いました。ブロックのリーダーを務めているこの方は、防災スタッフとして初めて関わることもあり、多くの改善ポイントを見つけられたようです。
「私は今回から初めて参加になります。内容は前任者より引き継いできているので難しさは感じませんでした。不安な点は、仕事柄普段は大阪市内を出回っていることが多く、いつ起こるともわからない発災においてまずOBPにいることができるのかということ。お隣のビルはどうしているのか、ホテルでは一般のお客様対応もある…など考えたうえで連携することが必要だと思います。振り返りの場でこの難点をお伝えできればと思っています。しかしながら、エリアでこのように訓練を行うということには意義を感じています。」
と、新たな視点を持った意見をお話くださいました。

また、男性と同社勤務でサブリーダーを担当されている方は、日頃総務部で勤務されているとのこと。
「弊社の総務部としては、まず会社の状況・業務確認があり、ビル内での対応がどうしても優先されます。今日の図上訓練のシナリオでは、発災して10分後に集合するとなっていますが、ビルでの対応を考えるとやはりネックになってくるのかもしれません。これは他エリアでのビルの動き、エリア全体の防災対応の詳細など、共通認識ができるように各社のルールなど共有が必要だと感じます。」
との見解をお話くださいました。

訓練を重ねることが結果的にベスト

訓練を重ねることが結果的にベスト

また別のブロックでリーダーをされるビル管理会社の男性は、
「防災担当スタッフとして関わるのは2年目になります。今回はリーダーということで責任意識がまたひとつ上がった感覚はあります。
今回は『エリア全体』ということでやっていますが、実質はブロック単位での動きがまとまっていることが大切であるように思います。OBPはひとつの街のようになっているので、実際に地震が起こったら恐らく人もバラバラと行動してしまうでしょう。
課題は、各ビルで事情が異なること。発災して直後のスタートの仕方は、ビルとして動かなければならない中、エリア全体の災害対策本部とどのタイミングで連絡を取りまとめていくのか、連携の難しさだと思います。しかし、今の活動を続けていれば避難誘導のイメージはつくと思うので、ゆっくりはしていられない話ですが、訓練を重ねるほか無いようにも思います。
この訓練のすべてを完璧に活かせるかと言うと、不足の事態は常に起こるので、恐らく難しいのでしょうけれども、このように訓練を重ねることで一人ひとりに心づもりができることには意義を感じています。」
と、お話くださいました。
訓練を繰り返すことの意義を感じられているようです。

講演で学ぶ東京の事例

エリア全体での訓練という点に加え、今回の初の試みがもう1つ。
東京の工学院大学建築学部まちづくり学科の村上氏によるエリア防災の講義の開催です。
村上氏はエリア防災に取り組まれてきた中、実際に2011年には東日本大震災を経験されたことから、改めて見えてきた実践的なお話をされました。
「“エリア防災”というのは、言い換えれば『みんなで助け合って被害を減らすために行動する』ということです。そのためのポイントは2つ。1つは物的な被害をできる限り減らすということ。そしてもう1つは、機能の継続を如何に業務としてやっていけるかです。OBPエリアも新宿や池袋などと同じように、エリア内だけの話ではなく外来者の対応が必要です。そのために日頃から、エリア防災の取り組みを外向けに発信することが重要です。
速やかな情報発信と、正確な情報把握は、3.11の経験から非常に大切であることを学びました。私たちはこうした学びからマニュアルをさらに強化していっています。
何より、まずはエリア防災に取り組む自分たちが動かなかったら始まりません。その次に拠点を立ち上げて本部を作り、地域を巻き込んでいく、というように徐々に防災について関わる人を増やしていくことが大切だと考えます。」
と、経験をもとにしたより実践的な内容を防災担当スタッフへ伝えました。

悪天候にも負けず訓練実施

講演で学ぶ東京の事例

10月24日実施の訓練本番はあいにくの雨模様。しかし、昨年に続いて訓練の視察のために、近隣エリアから多くの見学者が来訪されました。OBPの避難訓練は全国の指定地域の中でも防災訓練のレベルが進んでいると言われているのが分かります。
天候上、予定していた訓練内容の一部は中止となりましたが、事前から入念に準備をしていたからか、防災担当者の皆さんは冷静に自分の持ち場・役割を確認しながら無線機に耳を傾けます。タイムスケジュールは概ね時間通りに終了し、大きな混乱もない様子でした。
これらは準備を重ねてきた賜物と言えるでしょう。

見学されていた方の中には、京阪電気鉄道株式会社や、大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)といった交通インフラに関わる方も来られていたようです。帰宅困難者に関しては、交通機関との連携も欠かせません。エリア防災への関心が高まっていることが感じられます。
今後、OBPエリア内にとどまらず、近隣エリアとの連携強化がなされることも期待したいところですね。

戸惑う当日参加のワーカーが防災担当者を鍛える

悪天候にも負けず訓練実施

昨年に引き続きシナリオには、“歩行困難者”“外国人”“ろう者” “土地勘ない来街者”など想定される様々な役割が組み込まれていました。これらの役割は当日参加するワーカーの方々が担っています。
彼らは準備無く訓練当日を迎えるため、救護班や連絡係といった防災担当者の係については知りません。戸惑いを見せながらも防災担当者の誘導に沿って移動していました。
実際に発災したら「何が何だかわからない」という状態の方は多いことが想定されます。この日も戸惑うワーカーが、防災担当スタッフに様々な気づきを提供したことでしょう。
同時に、役割を担ったワーカー自身もまた戸惑う人の気持ちが理解できるようになったのではないでしょうか。当事者意識を高めるためには、シナリオに関わるワーカーが多いほど良いと言えるでしょう。

さらなる情報発信でエリア防災を完成させていく

戸惑う当日参加のワーカーが防災担当者を鍛える

今年度のエリア防災を主導されているOBP協議会の諏訪事務局次長は、雨の中だからこそ得られる気づきもあると言い、今回の訓練について次のように述べられました。
「今回の訓練においては連絡のやりとりがスムーズに運びました。事前の図上訓練で普段顔を合わすことのないワーカー同士が事前に顔を合わせ、コミュニケーションを図りながら動きを確認できたことがこの結果を生んだのではないかと思います。この5年の訓練の積み重ねで、OBPのエリア防災はブロック単位で連携をするところまでは完成形とされています。次の目標について事務局として考えているのは、ブロック内での連携を強化する点と、防災担当スタッフを越えた“ワーカー個人”レベルの意識向上です。そのために何が必要か、今回の振り返り等をして考えていきたいと思います。」

また、諏訪さんは、エリア防災の要となるのは“情報”ではないかと仮説。
たしかに発災時は如何に間違いのない情報を、的確に素早く一人ひとりへ伝えられるかで現場の状況は変わりそうです。
発災時だけでなく、日頃からOBPエリアでの防災の仕組みについて知っているワーカーの方はまだ少数なのではないでしょうか。
訓練だからということではなく、日頃よりエリア防災の情報にふれる機会をつくることはワーカー個人の意識向上へとつながりそうです。

途切れずに続けることは防災強化へつながる

さらなる情報発信でエリア防災を完成させていく

ビジネス街であるOBPは、住まいこそありませんが日中は大変多くのワーカーと来街者が行き来する場所です。
自然を相手にしているので悠長にはしていられないのは確かですが、これらの訓練や準備は、いざというときの行動の発想力へと繋がり、視野は広がるでしょう。
防災担当スタッフだけでなく、訓練に関わる人が一人でも増えることは、OBPの震災被害を防ぐ大きなポイントであると言えます。
今年見えた新たな課題をもとに、エリア防災の新たな進化を遂げるOBPであってほしいと思います。

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