vol.33 20年後のOBPは元気なまち? 新たな切り口「学び」でOBPを捉える

2020年1月27日、OBPアカデミア(TWIN21ビルMIDタワー 9階)で「20年後を見据えた 大阪ビジネスパーク将来構想の提案」と題し、大阪大学超域イノベーション博士課程プログラムの成果報告会が行われました。
これまでに登場の少なかった「学び」というキーワードをもとにOBPを考えてみます。

大学院の学びを変えようとしている大阪大学

本イベントは、2012年より始まった大阪大学大学院の特別プログラムである「超域イノベーション博士課程プログラム」に所属する、学生3名がプロジェクトの成果を発表する場。
一般的な大学院で知られるのは「○○研究科」というように専門的な研究を深ぼりするスタイルですが、「超域イノベーション博士課程プログラム」は、このような大学院としてのオーソドックスなスタイルに加えて、毎週金曜に所属する学生が集まって社会的課題に取り組む、特別なプログラムです。
この取組によって、学外の人や社会人とのコミュニケーションから学ぶことはもちろんのこと、各自が研究する専門分野との掛け合わせにより、様々な角度で課題へアプローチできるようにするのが狙いです。

竹中工務店より出された課題に取り組む

竹中工務店より出された課題に取り組む

このプログラムでは、毎年学外の方と協力して約1年のスパンで課題に取り組む授業「超域イノベーション総合」が実施されています。
今年度は、OBPの地権者企業の一つである株式会社竹中工務店より提供された課題がテーマ。
2019年4月よりプロジェクトとして取り組まれていた本件は、OBPについてやOBP周辺を取り巻く環境の変化を事細かに調査されています。
発表してくれたのは、課題に取り組んだ3名の学生のうち、中国からの留学生である許(キョ)さん、沈(シン)さん。
20年後考えられる状況予測をもとに、OBPがどのような在り方をすれば良いのか、学生ならではの視点で提案がされたのでした。

OBPが抱える課題は「魅力の低下」

OBPが抱える課題は「魅力の低下」

課題は、近年、梅田・難波・天王寺の南北軸の活発な開発に伴い都心軸が形成されたことにより、OBPで相対的な魅力低下が起きている点について。
2036年に迎える、まち開き50周年に向けて新たな都市の在り方を模索するというものでした。
インフラなどのハード機能の解決だけではなく、来訪者・近隣住民・ワーカー・地権者・自治体それぞれの立場から魅力を感じられるのが理想であり、その姿とはどのようなものなのか、まち全体の多様なライフスタイル実現を求められているのは、この課題のポイントと言えるでしょう。

脅威は、チャンスでもある

脅威は、チャンスでもある

「にぎわい創出活動に関する方向性のずれ」
「意思疎通におけるOBP協議会とその周辺のステークホルダーとの希薄な関係性」
「ニーズの複雑化による対応の難しさ」
の3点の指摘でスタートしたプレゼン。

それを踏まえて「ステークホルダーの協働的な関係を創り出す」ことが解決の鍵ではないかというのが今回の軸でした。
にぎわいに関するSWOT分析により導き出されたのは、OBPエリアにとって2025年はひとつの脅威とチャンスがあるということ。
2025年は森ノ宮に大学のキャンパスが予定されていることから、OBPにとって集客の脅威となり得るのではないかと予想されました。
しかしこの脅威は、一見人の流れを吸い取ってしまう要因でもありながらも、実はチャンスでもあると学生は言います。
これを機会に、学生と社会人の交差する構造を作るのが具体策として話されました。

「学び」を切り口に展開する20年後のOBP構想

「学び」を切り口に展開する20年後のOBP構想

そんな森ノ宮の変化も考慮して出された具体策は「学び」。
低い労働生産性や低い経済成長率という問題を抱え、終身雇用制の終焉を迎えている現代の日本。人材の流動性が高まる今後を見据えた時、個人・組織の両面で欠かせないのが「学び」であることから「School of Public Business Osaka」略して「School of PBO」が提案されました。
これにより、個々のレベルではポータブルスキルが身につけられ、組織レベルでは社員教育が行えます。
また、今回の発表の場でも使われているOBPアカデミアを学びの拠点として展開させ、将来建設が予定されている森ノ宮の大学キャンパスとも連携を図ることで、森ノ宮・OBP間をメインに、その他エリアからもOBPに学びを求めて人が行き来するという大胆な提案まで飛び出しました。

「学び」を切り口に展開する20年後のOBP構想

これらの仕組みがもたらす効果は、社会人にとって自己開発・学びを得る場所となり、また、学生数の低下が叫ばれる大学法人にとっての課題もカバー。ひいては、学生と社会人相互の交流も生み出せる場となり得るとのこと。
「学生」や「学び」と「ビジネス」との交差は、これまでのOBPでは登場回数が少なかったのか、エリア関係者も頷きながら聞き入ります。

学生が感じるOBPは「通過点」「静か」

学生が感じるOBPは「通過点」「静か」

参加者からは、通常の質疑応答のほかに、「学生の視点からはOBPという街がどのように見えているか」という、OBPの印象について聞かれる場面も。

沈さんは、「学生もにぎわうためには、今のOBPで欠けているものは何か?」という問いに対してこれまでの経験から次のように答えます。
「これまでは大阪城ホールを利用したことがあるだけでした。このテーマで調査に来て初めて『あ、なんか見たことがある場所だ』ということを思い出したのが正直なところです。OBPエリアでのイベント参加をしたわけでなく、この地は経由するだけになっているので、記憶の中にもストーリーが残らず覚えられないのかなと思います。また、私自身、日本の各地へ旅行も行きますが、例えば東京の場合、にぎわいの中には商業施設や学校が必ずあります。観光客としては文化を感じたい想いがあるので教育施設やイベントはあれば行きたいなと思うのですが、それがOBPにはないのが寂しいと感じます。」

一方許さんは友人の就職活動のエピソードから、
「友人は、就職活動でここへ来る機会はあっても、終わった後にすぐ家に帰ります。滞在しない理由はごはんを食べる場所が少ないからだと言います。また、私個人の見解では、朝の8時、9時頃に来てみても、ラッシュアワーの時間帯のはずなのに、外での人の行き来があまりなく静かでした。人がいない静けさは街の活気がないように感じましたので、人の動きというのは賑わいを感じさせるのに重要であると思います。」
と率直な意見を伝えます。

経済発展とにぎわいの矛盾

また、地権企業に属する参加者からは、
「学生も呼び込んでにぎわいを持たせるということは良いと思う反面、学生の金銭感覚に合わせた店舗も必要となる。それは結果的にデフレを引き起こすことになるが、企業の賃料が上がって収益を増やさないとならない立場からするとインフレの流れを作らねばなりません。OBPの経済成長性の視点から見るとデフレは逆のスパイラルとなり、大学生が来るというのは別の意味で脅威でもあるのが正直なところです。」
ビジネス上欠かせない視点をもとに鋭い意見が投げられます。
これには学生の二人もはっとしており、「経済効果についてはもっと詳しく検討をする必要がある」と気づきを得た様子。
今回の提案を遂行するとなった場合、経済成長は外せない話題であり、この件をどの様にクリアしていくかはポイントになりそうです。

お互いに良い気づきを得られた発表

お互いに良い気づきを得られた発表

OBPという土地に馴染みがないうえ、「エリアマネジメント」という聞き慣れないワードを理解するところからスタートしたお二人は、昨年(2019年)4月からプロジェクトを始めて約半年でこの提案を考え出すのは大変難しかったとお話くださいました。

(沈さん)
「今日、参加者の方から具体案に関する情報を求められたのですが、学生の立場や教育の側面でしかまだ考えることができず、経験がない分ビジネスの視点を持つことがまだまだ難しいなと感じます。
例えば、シリコンバレーの資金の話や、客層から考えられるインフレ・デフレの経済効果などは気づけない範囲だったので、こうして実際の場所で指摘をいただけるのはとても勉強になり、有り難いと思いました。」

(許さん)
「課題をいただいた最初、何より定義付けが難しかったです。OBPをまずは知るところから始まって「未来」という抽象的で大きな範囲で考えるとなると色々な着目点があり、逆に提案の軸を定めることが難しいなと感じました。
最初は観光のイメージが強かったのですが、より深く調べていくうちに、観光だけではないOBPの魅力に気づけたので、未来への可能性や期待は膨らみました。」

インタビュー調査は、竹中工務店をはじめ、OBP協議会、OBPワーカー、OBPアカデミアなどOBPと深く関連する所で行ったほか、西新宿のエリアマネジメント団体や、純粋にOBPをあまり知らない観光客など、広い範囲で行われたとのこと。
自ら足を運んで得た確かな情報をもとに苦労しながら作ってくださった提案は、OBPにとっても大変貴重な資料となるに違いありません。
社会人経験を持たない学生にとっても、今回の研究は良い刺激になったようです。

教育とビジネスの接点は多い

教育とビジネスの接点は多い

プロジェクトの中で学生をフォローしていた大阪大学COデザインセンターの山崎吾郎准教授へ、産学連携におけるお互いの姿勢で大切なことをお伺いしました。
「産学連携においては、お互いが本気でやりたいのかどうかの熱量が大切ではないでしょうか。今回の調査において相手側にどれほどの熱量があったかは、実際に足を運んで話を聴いた学生が何よりも感じている部分かと思いますが、まずは事のはじまりでもある課題提示段階で『これは解決しなくてはまずい』という危機意識と当事者意識が必要不可欠であると思います。『お互いに解決を一緒に考えていきましょう』という協力体勢が出来上がることが、私の経験上では上手く進むケースが多いです。教育とビジネスの接点というのは実は沢山ありますが、日本ではそれぞれの分野が棲み分けされており、考えが融合しにくいという風潮があります。これは大変勿体ないことです。教育とビジネスの両面の良い点を理解できるよう、今後もこのような機会を重ねていけたらと考えています。

OBPエリアの持つ性格と学びは親和性が高い

OBP協議会のアドバイザーをされている松本敏廣さんも参加された方の一人。OBPの今昔を知り尽くし成長を見守られてきた方です。
今回の学びを切り口とした提案について、
「かつて人々がショールームへ見にやってくるというのがスタンダードな時代にOBPは栄えていました。しかし参加型スタイルが中心となった時代の流れがきた。ビジネスのエリアとして振り返ったOBPは、立地環境はビジネスセンターでありながら、お客様と直接つながる営業的な場所ではなく、研究開発(ラボ)の性質を持っている。もともと集客をするという場所ではなかったわけです。
しかし、大学ができることでインパクトがやってくるという観点での議論はこれまでなかった発想なので、『学び』という切り口は新しく、面白いです。エリアの性格上『学び』と親和性が高い場所でもあります。
実際に進めるとなれば、具体的な部分での課題は恐らく沢山立ちはだかるのでしょうけれども、新たな変化を起こしていけるような動きになれば良いですね。」
と今後に期待されました。

今後の青写真を描く必要性

今後の青写真を描く必要性

会の終わりに同席されていた工学研究科の藤田喜久雄教授は、そもそも論を突き詰めて新しいことを考えるようにしたため具体性には欠けてしまうが、一方で、細かな点から入るとこの日のプランは考えられなかったとも話されます。
日々ビジネスの視点で考えていると、より具体的で結果に直結する提案を求めてしまいがちです。急ぐがあまり細かな施策を繰り返してしまうことは往々にして起こることですが、産学連携によって、学生という一歩引いた立場から俯瞰して研究されることや、大きな青写真を描くこともOBPエリアにとっては必要な時間なのかもしれません。
20年後は果たして“学びのOBP”という舵切りをしているのでしょうか、今後の方向性が楽しみでもあります。

Wanted!

OBP Style では、特集記事のネタを募集しています。
OBP内のイベントや活動、人、場所あるいはOBPに対する疑問、もっと知りたいことなど。
大阪ビジネスパークに関するテーマ限定ですが、様々なテーマを掘り上げていく予定です。
ぜひこのテーマをというのがおありでしたらご一報ください。
ご連絡は『OBPスタイル編集部』まで 

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